【記事】造園×アート!? 溝の口駅から徒歩5分の駐車場でスタートした造園家発のアートプロジェクト「ZŌEN(ゾウエン)」とは

田園都市線・溝の口駅、南武線・武蔵溝ノ口駅から徒歩5分の場所に位置する駐車場「eM/PARK(エム・パーク)」の屋上で、造園作家たちによるアートプロジェクト「ZŌEN(ゾウエン)~動く森展~」が毎年開催されているのをご存知でしょうか? 無機質だった駐車場が心地良い緑化スペース・eM/PARKに生まれ変わったのが2021年。その場所で開催されている「ZŌEN」は、前身となる都市緑化イベント「フォレリウム」から数えると2025年で開催5回目を迎えました。

気になるのは、アートとの結びつきが薄いようにも思える造園業者の皆さんがアートプロジェクトを手掛ける理由。「ZŌEN」の運営を担う株式会社Denの藤田将友(ふじた・まさとも)さん、造園家で株式会社みつや園の三代目でもある三家恵伍(みつや・けいご)さん、多摩区で造園業を営む植和造園(うえかずぞうえん)の野村和久(のむら・かずひさ)さんに、「ZŌEN」開催のきっかけから今後の展望まで伺いました。

写真左から順に 三家恵伍さん(株式会社みつや園)、野村和久さん(庭工房 植和造園)、藤田将友さん(株式会社Den)

この活動は川崎のひとつの価値。自信を持って発信していきたい

ーーまずは造園家の皆さんによるアートプロジェクト「ZŌEN」が始まった経緯から教えてください。

藤田将友(以下、藤田)さん:
立体駐車場を活用した「eM/PARK」を作る際に、どういった場所にしたいかといったアンケート調査を行ったんです。すると、溝口には緑が少ないといった声や、ママや子どもたちが気軽に利用できる場所が少ないといった声が多く聞かれたので、それを踏まえて、緑が感じられる建物を作ろうということになりました。

設計は、緑のランドスケープデザイン(屋外の風景や景観の設計・構築のこと)を得意とする古谷デザインさんにお願いして、色々と面白いアイデアをいただいた中で、カフェや保育園などが入ったビルと駐車場を一体的な建物にしたいということを僕が提案しました。その流れで、駐車場の屋上階を植栽の置き場にすれば、自然と屋上に緑が増えるよねという話になりまして。

——緑が感じられる駐車場を作りたいといった想いから、「ZŌEN」の前身となる緑化プロジェクト「フォレリウム」が2021年にスタートしたのですね。

藤田さん:

はい。駐車場という人工的な場所に緑を取り入れると、どんな現象が起きるのか社会実験をしたいという三家さんの想いが「フォレリウム」の始まりでしたね。

三家恵伍(以下、三家)さん:

藤田さんから声が掛かった時は面白そうな取組だなと思いましたし、溝口は自分が生まれ育ったまちでもあるので、ぜひ一緒にやってみたいなと思ったんです。

大学時代に都市計画を学んだ経験から、まちおこしにも興味があったので、eM/PARKがきっかけで溝口がどう変わっていくのかを知りたいという気持ちもありました。

——では野村さんは、どういった経緯でおふたりとご一緒することになったのでしょう?

野村和久(以下、野村)さん:

もともと僕は彼(三家さん)のお父さんの代の「みつや園」に勤めていたので、三家さんとはその頃からの腐れ縁ですね(笑)。

ある時に「こういったプロジェクトが進んでいるんだ」って声を掛けてもらって今に至るという感じです。

庭で緑を育てるという行為は、一番手っ取り早いアートづくり

——普段、お仕事で扱われている緑をアートとして扱うことについては、三家さん、野村さんを始め、職人の皆さんはどういった感想をお持ちでした?

藤田さん:

最初は揉めましたよね(笑)。中には「自分たちがやっていることはアートじゃない。俺たちはアーティストじゃないんだよ」とおっしゃる方もいて。

野村さん:

出来上がったものを見ると多分アートなんだろうと思いますけど、僕らはそう思いながら仕事をしていないので。

ただ、僕の場合は、もともと親方や先輩に「木1本の剪定も芸術だ」と教えられていたので、植木の手入れは芸術なんだという意識はありました。

三家さん:

僕は正直、どっちでもいいと思っていましたね(笑)。アートという言葉が人の興味を引くキーワードなのであれば、アートって言っちゃいましょうよっていう考えでした。

つい先日のことなんですけど、面白いことを言っている方がいて。山を持っている人って草木の手入れが必要で、山の維持にすごくお金がかかるんですよね。でも、誰かに向けてではなく、使命みたいなものだけで山を整備し続けている人もいる。

庭も同じで、植木を綺麗にしたり庭を作るって、誰かに見せるものではなくて自己満足に近いところが多少なりともあるじゃないですか。そういう意味で言うと、造園ってアートだよねってある不動産屋さんに言われて、なるほどなと思いました。わざわざ庭で緑を育てるという行為は、一番手っ取り早いアートづくりなのかもしれないな、と。

乱暴な言い方をすると、庭って生活に絶対必要なものではないですよね。でも、頑張って作った花壇に綺麗な花が咲くと、みんなが嬉しい気持ちになる。それって絵と同じなのかもしれないなって。

僕たちは仕事として庭づくりをしていますけど、何かを生み出すということは誰かに求めれるからやるのではなく、本来は内面から湧き出るもの。そのことに気付いた時に、自分たちの仕事はアートに通じるものがあるのかもしれないと思いました。

そういった想いを形にして披露する場所を作りたいと思って始めたのが、「フォレリウム」であり「ZŌEN」だと僕は思っています。

藤田さん:

不動産の視点から言っても、今ってマンション暮らしの人が増えたり、戸建ての場合も庭をモルタルで埋めて草木が生えないようにすることが多いんですよね。庭自体が減ってきたということは、当然ながら庭を作る機会も減っていて、職人が庭づくりをするのではなく作業員化が進んでいる。

そんな中、庭師や植木屋さんの生み出す作品を知ってもらえる場があれば、職人さんたちのその後にもつながると思うし、若い人たちに造園業のアート性を認知してもらえるのではないかと思うんです。そんな思いも込めて「ZŌEN」を開催しているところもあります。

野村さん:

あとは、この「ZŌEN」というイベントが業界の活性化につながればいいなとも思いますよね。

最近は地方の造園イベントに出展することも増えてきて、静岡のイベントで会った方が良いことを言っていたんですよ。「緑を見た人たちが、植木屋さんってカッコいいよねと思ってくれたり、将来は庭師になりたいって思えるようなきっかけづくりが出来れば嬉しい」とおっしゃっていて。

もっと言うと、こういったイベントで緑に触れたことをきっかけに、庭に何か植えてみようかなと思う人が増えるかもしれない。そうすると、まちの緑化が進むし、地球温暖化という地球規模の問題の助けにもなる。

そういったことも含めて、全国各地で「ZŌEN」のような催しが増えればいいなと僕は思っています。

川崎市発の「ZŌEN」を基盤に、造園家がメインの活動が増えると嬉しい

——造園家の皆さんが手掛けた緑をアートとして展示するだけでなく、会場に能舞台を作って狂言を上演したり音楽ライブを行うなど、伝統芸能や音楽と緑を融合する企画も「ZŌEN」ならではですね。

藤田さん:

能舞台にはもともと松が描かれていますし、伝統芸能と植物って密接な関係があるので、狂言に関しては造園家の皆さんも、とても乗り気でした。能楽堂と同じ寸法の舞台を実際に作ってもらって、周りに松などの植物を植えたのも好評でしたね。

音楽ライブや映像の上映に関しては、植物に興味を持ってもらうための要素のひとつという認識でしたが、コラボレーションをしてみると非常に相性が良いなと感じました。

アーティストの方が緑に囲まれた空間でのパフォーマンスに魅力を感じてくださることが分かったので、緑と音楽・映像とのコラボレーションは、これからも積極的に続けていきたいと思っています。

——では、三家さんと野村さんは、「ZŌEN」の今後をどう考えていらっしゃいますか?

三家さん:

どんな形であれ、長く続けることが一番の目標ですかね。僕らの仕事って自分の中ではYouTuberと同じだと思っていて、メジャーの契約をしたからプロというのではなく、自分が作りたいものを形にするということが仕事になっている。それってとても幸せなことだし、楽しいこと。

この業界的には古いものが良きものといった流れがまだまだありますが、上手く変化を取り入れながら、仕事もイベントも楽しく続けていけるといいなと思います。

あとは、藤田さんや野村さんのような先輩方が楽しく活動している姿を目の当たりにしているうちに、僕自身も下の世代の子たちに何かを残せるといいなという気持ちになってきました。

野村さん:

僕は「ZŌEN」のような活動を全国的に広めたいと思っていて、今は西日本を中心に頑張っているところなんですけど、20代、30代の子たちが「野村さんが出来るんだから俺らに出来ないわけないよね」って言いながらイベントに携わってくれるなど、若い世代の子たちの頑張りを目の当たりにしているところです。

徐々にそういった動きが生まれてきているので、川崎発の「ZŌEN」を基盤に、全国各地で造園家がメインの活動が増えると嬉しいなと思います。

——造園をアートのひとつと捉えると、職人である造園家の皆さんへの親近感も一気にわくと思います。溝口で生まれた造園×アートという取組が、川崎を超えて多くの人に届くと良いですね。

藤田さん:

ガーデニングイベントだったら多くの場所で開催されていますけど、造園業者が中心になって行っているイベントって、おそらく「ZŌEN」だけですからね。

この活動を川崎のひとつの価値として自信を持って発信していきたいですし、イベント自体をこれからも大切に育てていければと思います。

【「ZŌEN(ゾウエン)~動く森展~」】
駐車場としての機能だけでなく、カフェや飲食店、保育園も入る3階建ての施設「eM/PARK(エム・パーク)」が高津区溝口に2021年に誕生。2022年に“都市緑化×狂言×ソトアソビ”をテーマにした緑化プロジェクト「フォレリウム」が同駐車場の屋上でスタートし、2023年に都市と緑の新たな関係を探るアートプロジェクト「ZŌEN」に進化。5回目の開催となる2025年は、神奈川県内外の造園家・庭師・植木職人・ガーデナー・造形作家たちによる約20以上の作品を3日間限定で一挙に展示した。
ZŌENインスタグラム:https://www.instagram.com/zoen.green_project/
eM/PARKインスタグラム:https://www.instagram.com/em_park2021/

(取材日 2025年7月4日)
取材・文/佐藤季子 写真/矢部ひとみ

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