音楽、アート、食といったジャンルの異なる表現を組み合わせ、数々のイベントを行ってきた七福ボゴスさん。活動の中で出会ったのが、液体を光源にかざして壁などに投影する「リキッドライティング」というアートだ。
ヴィジュアルアーティスト・仙石彬人氏の生み出す作品に魅了され、新川崎の工場で音楽とリキッドライトを組み合わせたイベントを開催。その後も岡本太郎美術館のシンボルタワー「母の塔」を舞台にするなど、既存の枠にとらわれない空間を作り上げてきた。
そんな七福さんが川崎で目指すのは、初めての体験・表現に人々が触れることで、新しい発見や小さな変化が生まれるきっかけを作ること。活動の原点と、今後の展望について聞いた。

――まずは、音楽、アート、食を組み合わせたイベントを企画するようになった経緯から教えてください。
七福ボゴス(以下、七福)さん:
もともとブラックミュージックが好きで、10代後半からDJ活動を開始しました。DJと並行してイベントを制作していく中で、音楽だけじゃなく、料理やお酒、空間の香りにこだわれば、音の聴こえ方や料理の味も変わるんじゃないかと思ったんです。それで、料理人やお酒に詳しい人をイベントに招いて、空間作りの実験を繰り返すようになりました。
そのうちに飲食店で働くようになって、料理人への尊敬がどんどん強くなっていったんです。料理人が料理で人を楽しませるのって、ミュージシャンが音楽を演奏したり、画家が絵を描いたりするのと同じだと思うんですね。単なる食事の提供ではなく、料理もアートだと思うようになってからは、音楽、アート、食と、いろいろな表現を一緒に楽しめる場を作りたいと考えるようになりました。
――その「アート」の部分であるリキッドライティングとは、どのように出会ったのでしょうか?
七福さん:
リキッドライティングという技法を使ったアートを初めて見たのは、京都のあるライブハウスに行ったときです。店の扉を開けると視界いっぱいに美しい光の世界が広がっていて、あまりの衝撃に、すぐにヴィジュアルアーティストの仙石彬人君と連絡先を交換しました。
それから、川崎でリキッドライトを紹介する作戦を練り始め、自分が主催するイベントに仙石君が出てくれることが決まって。会場を考えていたときに、リキッドライトとのセッションをお願いしようと思っていた山崎円城さんという先輩ミュージシャンに相談したんです。すると、親戚が新川崎の工場を経営されている、と。工場なら仙石君のアートが生かせると思い、工場での開催を決めました。


2014年に新川崎の工場内と外壁を使って行った、川崎初のリキッドライティング photo/suiyoushashinkan
――工場という場所に惹かれた理由は?
七福さん:
普段は音楽が鳴らない空間にアートが映し出されたときに、どんな変化が起きるのか興味があって、自分自身も予測ができない場所のほうが、面白い体験ができると思ったからです。
それまではクラブやライブハウスなど設備が整った場所でしかイベントを制作したことがなかったので、工場での開催は、音響も照明も、近所への挨拶も含めて全く違いました。大変なことの連続でしたけど、あんなにワクワクしたことはなかったです。
もちろんクラブやライブハウスも大切な場所ですが、このイベント以降は、面白い場所で誰も見たことのないイベントを開催することに価値を見出すようになりました。今は自分で場所を探しに行くというより、面白い場所を見つけたらとりあえず僕に連絡がくるようになったので、すごく嬉しいですね。

――それほどまでに七福さんを魅了したリキッドライティングは、具体的にはどういったアートなのでしょう?
七福さん:
学校で昔、資料を拡大するのに使っていたオーバーヘッドプロジェクター(OHP)の光源の上に、水や油、インクなどの液体を用いて、リアルタイムで光の表現を作り出すビジュアルアート表現のことです。
デジタルのアートって拡大すればするほど滑らかな曲線が崩れていきますけど、リキッドライティングでは、本物の液体を反射鏡を通して投影するので、どれだけ拡大しても液体の美しいラインや世界観が、そのまま映し出されるんです。
しかも仙石君は、その場に流れる音を聴きながら、瞬間的に光で表現していく。その景色を見ていると、光に吸い込まれるような、ほかでは味わえない感覚が体験できると思います。


梶ヶ谷にあるビルの屋上にて。ガムランのミュージシャンとダンサーにリキッドライティングを組み合わせ、まちの人を驚かせた photo/Takuro Ogawa
――岡本太郎美術館のシンボルタワーである「母の塔」を舞台にした「Green TARO Night」(2024年11月)は、リキッドライトだからこそ実現した表現だったのですね。
七福さん:
30メートルもある塔なので、光をきれいに映し出すのは無理かもしれないと思っていました。でも、とりあえず仙石君に京都から来てもらってテストしたところ、見事に塔の全面に、しかも想像よりも色濃く映ったので、握手をしながら「ぜひやりましょう」という話になって。
本番では塔の真下のドーム部分にミュージシャンを置き、音と光のエネルギーが塔から放たれているような空間を作りました。「母の塔」が生きているのかと思うくらい、インパクトがありましたね。
ライブの音響も、低音を強調するような音像ではなく、生田緑地の森や風、水の音と混ざり合うようなサウンドデザインを音響担当の方にお願いしたんです。会場に続く道にもマルチチャンネルスピーカーを仕込み、自然の音と一体となって完成する音響を目指しました。


まるで生きているかのようなエネルギーを放った「Green TARO Night」での「母の塔」 photo/AKAZAWA KOH
――その約半年後に行った「Colors TARO Night」(2025年4月)では、ダンサーを起用したそうですね。
七福さん:
この時は、仙石君と塔の間に作ったステージでダンサーにパフォーマンスしてもらい、踊っている影を「母の塔」に投影するという方法をとりました。ダンサーがOHPに近づくと影が大きくなり、離れると小さくなる。その変化を意識しながらパフォーマンスしてもらいましたね。
――ダンサー自身がリキッドライトの一部になったわけですね。
七福さん:
そうです。リキッドライトに人間の動きが入ることで、もうひとつレイヤーができたような不思議な光景が生まれて、「Green TARO Night」とはまた違った表現を生み出せたと思います。


ダンサーもリキッドライティングの一部となった「Colors TARO Night」 Photo/Saho Matsuyama
――10月に溝の口で開催される「ZŌEN」でも、リキッドライティングが体感できるそうですね。
七福さん:
「ZŌEN」は、緑化率の低いまち・溝の口の魅力を、緑化アートによってさらに高めることを目的としたイベントで、僕はステージと出店のディレクションを担当しています。
先ほど「料理人もアーティスト」とお話ししましたが、庭師もまさにそうだと思うんですね。それぞれのスピードで育つ植物の姿を何年もかけて予測し、必要な要素を配置していく。これほどクリエイティブな仕事はないと思います。庭師たちが作った庭に、昼は陽の光、夜は控えめなライトアップを施して、じっくり作品に向き合える空間を作る予定です。
庭師が作った能舞台で狂言も行うのですが、その背景にリキッドライトを投影するという、これまでにない演出にも挑戦します。また、インドの音楽をメインにしたセッションでは、前後から音を響かせて、演者と壁面にもリキッドライトを投影する予定です。お客さんがリキッドライトの世界観に、どこまで没入できるか…。僕の中では仙石君が生み出すアートの美しさに勝るものが今のところないので、ぜひたくさんの方に体験してもらいたいです。

文教堂 溝の口本店の巨大な壁にリキッドライトを投影した2024年の「ZŌEN」
――七福さんが最初におっしゃっていたアートのひとつである「食」に関してはいかがでしょう?
七福さん:
10月17日の土曜の夜は、月夜と能舞台に合わせて、折詰弁当や和菓子、日本酒などを楽しめるように用意しています。18日の日曜日は、スリランカ料理や割烹料理、パン職人と、それぞれ個性的で魅力的な料理人たちに料理を提供してもらう予定ですね。
その隣では、料理に使われている新鮮な野菜の販売や、植物を使った庭づくりのワークショップの開催も。尊敬する料理人や生産者に集まっていただけるので、来場するみなさんにとって、新しい視点を持ち帰ってもらえるイベントになるといいなと思っています。
昔は日本中に個性的なお祭りがたくさんあったと思うんですね。歌が上手い人が歌を歌い、太鼓が上手い人が太鼓を叩き、料理が得意な人が料理を作る。そして、みんなでお酒を飲んで、みんなで踊る。そんなふうに、昔でいう「収穫祭」に近いものができたらいいですよね。
――大人も子どもも楽しめるイベントになりそうですね。
七福さん:
絵を描いたり、楽器を演奏するといった仕事が、僕が小さい頃は身近ではなかったので、テレビに出ている芸能人以外にも自分の「芸」でご飯を食べている人がいることを、僕は知りませんでした。
でも、大人になって楽しいことを探していると、想像もしなかった面白い生き方をしている人がたくさんいることに気づいたんです。もし自分が小さい頃にそういった人たちに出会っていたら、人生のチョイスが変わっていたのかもしれません。そういう意味でも、僕が企画するイベントが、子どもたちの将来の選択肢を広げるきっかけになったらいいなと思っています。
――イベントのその先にある変化も楽しみです。今後は川崎でどんなことをしていきたいですか?
七福さん:
リキッドライティングで言うと、常に僕は壁を探している節があって(笑)。見つけたらその壁の写真を撮って、仙石君に「やばい壁があったよ」って連絡するんですよ。映像を投影するアートフォームって、壁が傷ついたり汚れたりしないから、もっとまちのいろいろな場所で楽しめると思うんです。面白い場所があればぜひ教えてもらいたいですし、リキッドライティングに限らず、もっといろいろな場所で、気軽に映像や音楽、食を楽しめるイベントにチャレンジしていきたいです。
――では最後に、この記事を読んでいる方や、イベントに関わっている皆さんへメッセージをお願いします。
七福さん:
世界平和ほど大それたことは言えませんが、僕がやっていることが、イベントに来てくれた人にとって、次の日にちょっと調子がいいとか、ちょっと人に優しくできるとか、そんな小さな変化を生み出すきっかけになったら嬉しいです。
そして、これまでの企画に力を貸してくれたすべてのアーティストに感謝していますし、尊敬もしています! またぜひ一緒に遊びましょう!

<七福ボゴスさん プロフィール>
川崎発の音楽レーベルの運営や、会場を特定しない即興イベントのオーガナイズなどを行い、立ち飲み酒場「二坪酒場」では世界の郷土料理を提案。
七福ボゴスさんインスタグラム
★下記から「Colors TARO Night」のリキッドライティングの様子をご覧いただけます。
「Colors TARO Night」動画
<「ZŌEN 2026 動く森展>
日時:2026年10月16日(金)・17日(土)・18日(日) 10時〜16時
会場:eM/PARK屋上 特設会場・溝ノ口駅前キラリデッキ
詳細:ZŌENインスタグラム
★「ZŌEN」については、過去の記事『造園×アート!? 溝の口駅から徒歩5分の駐車場でスタート した造園家発のアートプロジェクト「ZŌEN」とは』もご覧ください。
(取材日 2026年8月27日)
取材・文/佐藤季子 写真/矢部ひとみ